宝塚・雪組『f f f -フォルティッシッシモ-』感想

宝塚・雪組『f f f -フォルティッシッシモ-』感想

宝塚ブログになってきました。望海風斗・真彩希帆の退団公演である「fff―フォルティッシッシモ―/シルクロード~盗賊と宝石~」、今まで見た中で一番感激したので情熱のままに感想を書きます。

配信で見た時と舞台で見た時と、かなり印象の異なる舞台だった。それは舞台から発せられる物凄いエネルギーを体感できたから。ラストのベートーヴェンのサインがあしらわれたネオンと晴れやかな白の衣装、黄金に輝く天国で力の限り歓びを歌い踊るジェンヌたちのその姿が、あまりにも感動的だった。上田先生の言うところの「ポジティブなエネルギー」。あんなシーンはめったに見られない。これこそ舞台の醍醐味、生で目撃できて本当に良かった。

まさか自分がベートーヴェンに対してこんなに親しみを抱くとは思っていなかった。この作品で描かれるベートーヴェンは人間味に溢れ、困難の多い人生を経て彼がどうして偉大な音楽家になり得たのか、それが明確に示されている。

彼が生きた時代の背景、当時の音楽家としての評価、アーティストとしてのスタンス、彼の生い立ちから人物像を掘り下げ、彼が憧れたナポレオン、ゲーテとの関わりを象徴的に扱つつ、全編を宝塚のフォーマットで華やかに楽しく、感動的に描く。シリアスに傾きすぎないバランス感覚。本当に素晴らしい。

東京宝塚劇場20周年記念パネル

イントロダクションの戦隊モノのような華やかな演出には胸が高鳴った。謎の女(真彩希帆)とのコミカルなやり取り、舞台に一人きりの独唱シーン(ベートーヴェンの人並み外れた生命力を歌で表現できる人、それが望海風斗)、彼の人生の指針となる「小さな炎」の伸びやかなダンス、ラストの謎の女の独唱・幻想シーン・・・今の雪組の良さを最大限引き出してくれているのもファンとして大変うれしいところだった。

上田先生の作品は「愛」についての描写がとても細やかで、私はそこが大好きだ。同じく音楽家ブラームスを主人公にした「翼あるひとびと」でもそこに一番感激した。多面的で複雑な愛の形をしっかり見せてくれる。

今回でいうと、ベートーヴェンの幼なじみロールヘンのキャラクターが素晴らしかった。彼女は母のような愛でベートーヴェンを包み、彼の志を理解していた。

最後に読み上げられるロールヘンからの手紙。ベートーヴェンと同じように、ナポレオンも最後まで人のために働いていた。彼らは偉大なアーティストであり、自らの才能を人々のために使い、混沌とした時代に人々を導く英雄だった。あなたを尊敬してる、あなたは一人じゃない。それを彼に伝えるための手紙だ。

運命を受け入れ、勝利し、歓喜に至ったシーンでそれを読み上げる…そこから天国への流れが完璧すぎて、劇場で自然と胸に手を当ててしまう自分に気が付く。なんだこのこみ上げてくる涙は!こんなに私(ファン)のために力を尽くしてくれて、本当にありがとう!!!ベートーヴェンへの思いと同じように、望海風斗、真彩希帆を始め、雪組メンバーへの感謝の気持ちで胸が一杯になる。まったく、あの素晴らしいトップ二人の退団公演にふさわしい作品だと思う。

上田久美子先生の、努力を惜しまず人のために働くベートーヴェンやタカラジェンヌのような人々への敬意、愛があるからこそ作り上げられる舞台だ。哲学的で深いテーマが込められているうえ、きちんと宝塚のミュージカル。物凄いインテリジェンスに裏打ちされた作品・・・見れば見るほど深みが増す、稀有な作品です。

ショー作品「シルクロード~盗賊と宝石~」も大変素晴らしくてめちゃくちゃ褒めたいし、「BUND/NEON」ぽいシーンのラップとか衣装かっこよすぎとか菅野よう子氏の楽曲の使われ方も最高なのですが長くなりすぎたので一旦ここで終わります。