ホドロフスキーとリンチとデゥニの「DUNE 砂の惑星」|原作がすごすぎる映画は難しい
- 2021.09.29
- 映画レビュー
- SF, デイヴィッド・リンチ
2021年10月15日公開の「DUNE 砂の惑星」。デゥニ・ヴィルヌーヴ監督、フランク・ハーバートの同名SF小説を原作とした映画です。この原作「DUNE 砂の惑星」は1965年の出版以来、いろんな人が映画化しようとしては失敗している大傑作です。
DUNEの映画化にかかわった監督で有名なのが、アレハンドロ・ホドロフスキーとデイヴィッド・リンチ。でも、二人とも違う理由で大失敗しています。それらの失敗を踏まえたうえで、最新のDUNEについての感想を書いていきます。
ホドロフスキーのDUNE(1975年頃)
1975年ごろ、ホドロフスキーが監督を任され、映像化に向けて走り出すが頓挫してしまう。このあたりの顛末をドキュメンタリー映画化したのが「ホドロフスキーのDUNE」。AmazonPrimeVideoで見られます。↓
ホドロフスキーはアイデアもすごいけど「スカウト能力」がズバ抜けてすごい。絵コンテをフランスのバンド・デシネ作家のメビウスに、美術をH・R・ギーガーに依頼したりと、のちの超大御所をことごとくスカウトしていきます。今となっては夢のような企画。
ホドロフスキーは当時「ホーリー・マウンテン」(1973年)でカルト的人気を得ていたけど、ハリウッドメジャーで映画を作るほどの資金力はなかった。だから分厚いコンセプト本を製本してスタジオに持っていく。そのクリエイティブが本当にすごい!ぜひ出版してほしい。斬新でカッコイイキャラクター、背景美術、宇宙船。これが実現していたら途方もない名作になってたんじゃないだろうか?
ホドロフスキーのインスピレーションはとどまることを知らず、製作費ばかりが膨れ上がる。原作のスケール感を考えればさもありなんという感じです。しかもホドロフスキーは絶対譲らない。一介のインディーズ監督にそんな大金を出せるスタジオもなく、企画は頓挫。そして企画はほかの監督に流されてしまいます。アートは、アートは金にならん・・・。
デイヴィッド・リンチのDUNE(1984年)
そして次に監督を任されたのが「エレファント・マン」で成功を収めていたデイヴィッド・リンチ。この「DUNE 砂の惑星」(1984)もAmazonPrimeVideoで見られます。↓
今見るとCGはグダグダだし、ストーリーも足早すぎて、正直どうした?って感じは否めません。でもそれって、リンチが悪いんではなくて製作陣のせいなんですよね。
デイヴィッド・リンチの自伝「夢みる部屋」でも、DUNEは苦い思い出として書かれています。ファイナル・カット権をプロデューサーに持っていかれ、編集室でリンチの作品は完全に壊されてしまった。大きな違和感はこのせいでしょう。ラフ版が5時間もあったっていうから、まぁ金儲けには適さないでしょうよ・・・。「あれは僕の作品じゃない」とまで書いています。
ただ、主演は「ツイン・ピークス」のカイル・マクラクランだし、リンチお得意の不気味な巨大生物(原作では一切出てこない)や、悪役の造形などがリンチらしく狂ってて最高です。巨大生物はでっけえ水槽に入ってて、地獄の底から来たぜみたいな声色で話すんですが、水槽移動の時こぼれる水を周りの子分たちがモップみたいなのでフキフキしてたりして本当にステキ。
ホドロフスキーもリンチも、この失敗を経てその後のキャリアの土台を獲得しているように思えます。ホドロフスキーはメビウスと伝説的なバンド・デシネ(「アンカル」)を作っているし、スカウトされたクリエイター達はハリウッドで大活躍。リンチもこの時の人脈から「ブルーベルベット」を作っています。
デゥニ・ヴィルヌーヴのDUNE(2021年)
そして最新版の「DUNE」の監督をするのがデゥニ・ヴィルヌーヴ。「ブレードランナー 2049」「メッセージ」など、荘厳で哲学的なSF映画を上手に作る人、というイメージなのでごくまっとうな企画に思えます。(謎の天才肌監督って感じじゃないし、お金も出しやすそう)
2部作として上映するそうで、今回は「Part1」。世界初の「Filmed in IMAX」として上映されます。要するに、上下幅の広いフルサイズIMAXに完全対応している。実際IMAXで見ましたが大迫力で、これぞ映画館で見るべき映画。一面の砂漠に超どでかい構造物がバーンと出てきたりするので、見応えがすごいです。なんかこう、ついにDUNEが映像化できる時代がやってきた感があります。
原作は「思考」の部分にかなりの文字数を割いています。「砂の惑星」の管理を任されたアトレイデス侯爵家の世継ぎである15歳の主人公は、母から伝授された「読真」という人の心を読む技術、「繰り声」という人を意のままに操る術など、特殊な能力を備えている。術をいかに行使するかというロジック部分も面白いのですが、「砂の惑星」が砂漠でおおわれて水分が極端に貴重で、「香料」という老化や感覚の鋭敏化に効く貴重な産物(≒ドラッグ)を宇宙系で唯一産出できるという舞台設定もかなりユニーク。そして、振動に反応して人間を襲う「超巨大なサンドワーム」やトンボのように翅を震わせて飛ぶ「羽ばたき飛行機」など、SFらしいアイディアがてんこ盛り。原作が壮大すぎて、2時間の映画じゃ絶対収まりきらないんですよね。
今回の映画化ではこの映像化しづらい「思考」の部分も、「砂の惑星」という舞台設定も、すべてまっとうに映像化している印象でした。冗長になりそうな要素をうまく引いて作っている。原作で有り余るほどのアイディアが詰めこまれているシーンも、セリフで説明しすぎずスマートにクリアしている。IMAXのスケール感を完全に使いこなしていて、視覚的に面白いアイディアをプラスしつつも原作の面白さを損なうことなく、「まっとうに」映像化している。これはたぶん、原作ファンから文句も出ない出来だと思います。2部作にするって判断も正しいし。
技術的な制約がほとんどないような時代に「DUNE」を映画化するとこんなことになっちゃうのか。原作者が見たらどう思うだろうか。なんてことを思うほどに「原作に忠実」。ホドロフスキーなんて、原作は「インスピレーション」にとどまってたし、リンチのはCG部分は何とか工夫して映像化したような出来だった(その工夫自体がリンチらしさでもあったのだけど)
ここまでくると「Part2」で、どのくらい独自性を出してくるのかが気になる。もちろん、随所にドゥニっぽさが出てはいるけど、基本は奥に引っ込んでいる感じだった。それほどまでに原作が強烈だということもあるけど、次回はデゥニ成分が濃ゆくなって、もっと変な映画になってると嬉しいななんて、リンチ好きな私は思ってしまいます。そして、ちゃんと「金が儲かる」作品になっていくのだろうか・・・。
最後に私から伝えたいのはこれだけです。
ドゥニのDUNEは絶対にIMAXで見よう!!!!!
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