映画感想|ミス・エデュケーション(2018年・日本未公開)

映画感想|ミス・エデュケーション(2018年・日本未公開)

クロエ・グレース・モレッツ主演。同性愛者であることが親にバレて、同性愛を”矯正治療”する施設へ送り込まれてしまう少女のお話。

日本でこの作品がDVDリリースになったのは、同じ”矯正治療”をテーマにした「ある少年の告白」が劇場公開になるからだろう。こっちも劇場でやってくれよ・・・

「ある少年の告白」は実話をベースにしていて、現在もアメリカの一部の地域で行われている”矯正治療”の残酷さをリアルに描く作品。同性愛を「罪」とみなす保守的なキリスト教信者である親が、同性愛者の息子を”矯正治療”施設に入れてしまうのだ。ジョエル・エドガートン監督作で、見ていて苦しくなるほどシリアスで硬派な作風。

一方、「ミス・エデュケーション」の監督デジレー・アカヴァンは35才の女性で、主人公は女の子で、フィクションだ。いろいろと対象的な作品なので、この2つの作品を同時に見比べられたのは面白かった。

「ある少年の告白」Theodore Pellerin stars as “Xavier” and Lucas Hedges stars as “Jared” in Joel Edgerton’s BOY ERASED, a Focus Features release.

同性愛の”矯正治療”の辛い所は、親の信仰と紐付いた「同性愛が罪であって、治療できる病気だ」という考えを、最初は本人も信じたがってしまうところだ(もちろん病気なんかじゃないから苦しむ)。「ある少年の告白」でも「ミス・エデュケーション」でも、そこは変わらない。だけど、矯正施設の描き方が全く違う。

「ある少年の告白」で描かれる矯正施設にはかなり攻撃的なキャラクターがいて、あからさまな洗脳が施されるシーンが頻繁に出てくる。一方、「ミス・エデュケーション」では終始穏やかな調子で、なんなら施設側に子供達と同じように傷ついた大人が居て、優しい言葉をかけたりする。

ただそこには、ゆっくりと巧妙に自己否定の種を植え付けられていく、そんな地獄がある。罪だ罰だと攻め立てるのではなく、「原因がどこかにあるはずだ」「親は君を誇りに思うかな?」「仲間と一緒に頑張ろう」そう言って子供達をコントロールしようとする、共感を装った同調圧力。

実際、傷つけられた心に気付かないふりをして、教えを信じコミュニティに馴染み、自らを閉じ込めようとする子もいる。そんな中、主人公が迷いながらも自分自身を肯定し自由になるまでを、様々な人物にフォーカスを当てながら丁寧に描いているところが素晴らしい。

自分らしさを否定されることへの苦しみは同性愛に限らずあまねくあって、主人公の苦しみが大きな意味で「自分らしくあること」への苦しみだと捉えられることも、好ましく感じた点だった。それはきっと、誰もが経験する苦しみだから。そういう意味ではごくまっとうな青春映画だし、細部に感情が行き渡っていていい作品だと思った。こういう作品が日の目を見ないのは残念だ。

「ある少年の告白」は犯罪を告発する映画で、「ミス・エデュケーション」は身近にある地獄を描いた作品。

確かに”矯正施設”でどのようなことが行われているのか告発する意義は大きいと思うけれども、語られるエピソードがショッキング過ぎて、自らを否定される子どもたちの苦しみが異世界での話に思えてしまうのは難点だ。派手さはないけれど、地獄のさなかにいる人々を救うのは「ミス・エデュケーション」の方だと思う。

クロエ・グレース・モレッツはもっとこういう良い映画に出てほしいし、日本で公開してほしい・・・。瞳の奥に怯えた感情を隠しながら、目の前の大人にきちんと対峙しようとする表情とかとっても良かった。

総じて面白かったです。 DVD買おうかな(ツタヤで借りられます)